今回は「日本人の体質」研究でわかった長寿の習慣」著者、奥田昌子(おくだ まさこ)の本の要約です。
厚生労働省によると、平成29年度時点の日本人の平均寿命は女性が87.26歳、男性は81.09歳で、男女ともに過去最高に達しています。世界的に見ると日本の平均寿命は長く、2018年時点で世界第2位を占めるほどです。その背景には、日本人の長寿者に共通する生活習慣がありました。
本書では、健康長寿に裏付けされた科学的データによる4つの習慣を抽出しています。まず、平均寿命と健康寿命の意外な事実についてお話します。次に、日本人の体質や遺伝との関係性を検討し、お手本となる百寿者の食生活をのぞきます。最後に、老化に関する医学研究の最新情報をご紹介するので、ぜひお楽しみに。残りの人生を有意義に過ごすための知識を吸収していただけたらと思います。
本書の要点
1.日本人がみな長生きというわけではない!
2.老化を防ぐ長寿遺伝子をオンにする方法
3.日本人の体質に合う、健康寿命を延ばす食生活
4.最新医学でわかる老化の仕組み
5.人生100年時代を健康に過ごすための生活習慣
解説
1.日本人がみな長生きというわけではない!
そもそも平均寿命とはどういう意味か理解できていますか。「平均寿命が81歳」というのは、現在生きている私たちが平均して81歳まで生きるという意味ではありません。平均寿命とは、死亡率が今後も変わらないとして、その年に生まれた赤ちゃんが何歳まで生きられるかという、将来の話に関係します。ここでクイズですが、「健康寿命が長いのは現代の栄養がいいから」というのは誤解です。「平均寿命が長いのは高齢者が健康だから」という表現であれば正しいです。
また、「和食はヘルシー」というのは、正しくは「昔の和食はヘルシー」と言えます。理想の和食は、1980年頃の日本型食生活と位置づけています。ただ、理想の和食だからと言って長生きできるとは限りません。体質は遺伝によって決まる部分もありますが、同じ遺伝子を受け継いでいるので、ある程度は日本人の体質と呼べるものが作られてきました。例えば、日本人に動脈硬化が起きにくいのは、遺伝と、魚を食べる習慣のおかげだと考えられています。
ただ、やはり積み重なった生活習慣が寿命を左右するため、日本人だからと言って長生きできないのが現代です。運動不足、タバコ、飲酒などは、糖尿病などの生活習慣病、脳梗塞、心筋梗塞、がんといった様々な病気に関係しています。
2.老化を防ぐ長寿遺伝子をオンにする方法
現在のところ、少なくとも哺乳類については、この遺伝子さえ持っていれば長生きするという「長寿遺伝子」は見つかっていません。ただし、老化を引き起こす要因の手がかりは少しずつ明らかになってきました。遺伝子研究が進むにつれて、生活習慣や環境が遺伝子のスイッチをオン・オフと制御することが分かっています。実は、病気のかかりやすさや老化、寿命の違いがあるのは、この仕組みが関係しているからなのです。
では、長寿遺伝子を活性化させる習慣についてご紹介します。肥満や糖尿病は、認知症のリスクにもつながるため、健康寿命を延ばすためには正しい生活習慣が欠かせません。一方、健康寿命に効果を与えるものとして、「好奇心」が報告されています。未知のものに対する好奇心が働くと、意欲や冒険心に関わるドーパミンという物質が放出されます。日本人が勤勉なのは、「勉強」と「新しい経験」によって寿命が延びる仕組みと相関がありそうです。
また、読書も脳を鍛える重要な手段です。読書をすると、読み終わって数日後でも脳の言語、記憶、聴覚をつかさどる部分が活発化していることが報告されています。読書は、意味の具現化を通じて、長期にわたって脳を刺激する手段なのです。大切なのは、その場面などを脳内で思い浮かべることなので、漫画や写真集など文字が多くない書籍は適していないかもしれません。速くたくさん読む必要はなく、自分のペースで、本の内容に集中して読むことが大切です。
3.日本人の体質に合う、健康寿命を延ばす食生活
ここでは、日本の百寿者たちの食生活についてポイントをお伝えします。
まずは、男女ともに「三食きちんと食べる」割合が9割を占めていました。牛乳ないし乳製品、卵、豆、海藻類、果物を「ほとんど毎日」または「二日に1回」摂取しており、栄養バランスを考慮したメニューを食べているそうです。魚を中心とする動物性たんぱく質と大豆、野菜(とくに緑黄色野菜)、海藻を積極的に摂るようにしましょう。
さらに、腹八分目の食事量を心掛けることもポイントです。実際、健康寿命を短くして、死亡率を高める最大の要因は、「不健康な食生活」「収縮期血圧の上昇」「喫煙」「肥満」「糖尿病」の5つだと言われています。「不健康な食生活」はおもに野菜の摂取不足、全粒粉の不足、肉類の食べすぎ、塩分の過剰摂取、高カロリー飲食物の摂取を指しています。肥満は健康長寿の大敵ですので、まずは食生活から改善していきましょう。事実、長寿者の血液には、糖尿病を防いでくれるアディポネクチンという物質が多い傾向が報告されています。お腹の内臓脂肪を減らすために、このアディポネクチンは重要な役割を果たします。腹八分目を継続することで、日本人の弱点である内臓脂肪の蓄積を確実に減らすことができます。
4.最新医学でわかる老化の仕組み
では、長寿に関連のある最新医学をご紹介します。2009年のデンマークの研究者らは、「同じ年齢でも老けて見える人は、血管年齢が高い傾向にある」ことを明らかにしました。これに付随して注目されているのが、「糖化」という現象です。高血糖により余分な糖分が体内のタンパク質と反応して、AGEという物質を生成します。すると、タンパク質の機能が低下し、糖尿病の合併症や認知症、がん、肌の老化といったあらゆる不調を引き起こすのです。ちなみに、糖化を止めるためには運動しなければなりません。現代の和食は脂肪の摂取が増えすぎており、ファーストフードなど欧米型食も頻繁に摂られるようになっていることから、食生活の改善に加えて適度な運動も必要となります。
5.人生100年時代を健康に過ごすための生活習慣
体をよく動かす人は長寿の傾向にあります。有酸素運動は体に酸素をしっかり取り入れながらじっくり運動するもので、ウォーキング、自転車こぎ、水泳などが代表です。それらの効果は素晴らしく、高血圧、糖尿病、動脈硬化に関する専門学会は、一日30分を目安に、1週間に5日以上実施するよう推奨しています。野菜嫌いでも長寿世界一になった女性の事例にもあるように、体内の余分な脂肪を減らして糖化を防ぐために、運動は優れた手段なのです。
まとめ
いかがでしたか?今や和食が健康だと世界的に見直されていますが、実際に見直すべきは「昔の和食」です。現代人の和食だけでは、糖尿病や認知症などのリスクを減らすことは難しいため、栄養バランスを考えた食事内容はもちろん、適度な有酸素運動も取り入れることが重要だと分かりました。本書にはほかにも、長寿に関する豆知識が載っているので、ぜひ読んでみてください。
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